世界に届けるひとりごと

オタクがつれづれに残す備忘録

「セリシール」はなぜ異質か

日本語の中の外国語は「それっぽい」が一番大切だから、気にしたもん負けなんですよね。


 

 

 

ですが今回、SQ12月号の新テニ(わからない人は読もう。テニプリっていいな)で、

「桜をフランス語でセリシールという」

と言ってることがどーーーーーーーーしても気になってしまって。

 

 

普段ならフランス語の多少の間違いなど笑って流せるのに、なぜこんなに許せないのか自分でも本当に謎でした。

その自分の中のもやもやを明らかにしたかったので、とにかく調べてみた。細かさなら任せろ!

そして、知ってほしいことがあるので本当に長くて専門的なことも出てきますがぜひ読んでほしい。

 

 

 

 

SQ12月号 新テニスの王子様 Golden age 249 ボーイフレンド

の、プランスくんの一セリフ

 

「ほう…桜(セリシール)か 美しい名だ」

 

  

どう考えてもこれはおかしいんです!!!!!!!

 

 

 

何が?

 

 

フランス語で桜をセリシールとなんか言わない。

 

 

 

グーグル翻訳でも和仏辞典でも、桜の仏訳は"cerisier"と出てくる。

cerisierを発音記号に直すと/səʁizje/、ざっくり日本語で読むと「スりズィエ」

/ə/は「ウー」と読むし、フランス語でsが1つの場合は基本的に濁って「ズ」と発音する。単語の最後の子音は読まないのが鉄則。

 

つまり、発音記号から考えると間違ってもセリシールとは読めない
もしかして別単語?と思って類語を調べたが、これ以外の「桜」に該当する単語は出てこず。ちなみにさくらんぼは"cerise(スりーズ)"です。

 

 

 

 

ものすごーーーーーく譲歩して、全部ローマ字読み+フランス語「風」な読み方をすると、「セリシール」にならなくもない。

ce ri   si  e   r

↓   ↓      ↓     ↓   ↓

せ り し - る

 

こんな感じに。最後に~ルって付くとフランス語っぽいね(「ぽさ」について詳しく言うともはや論文を書けてしまうので割愛)。そして可哀想なe。

と、まあこの読み方が誕生した経緯はなんとなくわかる。日本人が考えたんだろうなって感じがめちゃめちゃ伝わるけど。

 

 

じゃあなんでセリシールなんて言い方が「正しい」と思われちゃったんだろう~???
出版物だし、ろくずっぽ調べずに世に出したとも思えなくて、気になって「セリシール」でぐぐってみると。

 

 

 

 

 

めっちゃめちゃ出てくる。

アパートやらレストランやら美容室やら。

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スリズィエより圧倒的に多いやん!!!

ここまで日本に「セリシール旋風」が巻き起こっていたことに驚きを隠せない。民主主義的に見たら、もはやcerisier=セリシールだとしか言いようがない。

 

ちなみに「セリシール 意味」で調べると、桜って意味です~♪と出てくる。

 

 

 

そして「桜 フランス語」でグーグル検索すると、スリズィエとセリシールが両方出てくる。

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こりゃ、フランス語わからん人が見たら混乱するわ。

数で見たらセリシールが圧倒的だったので、多数決でセリシールくんの勝ち!!!!!!ってなるもん。

 

 

恐らくこれが今回の間違いの背景では?

つまり、フランス語を全く知らない人からしたら、またはネットで調べた程度では、セリシールもスリズィエもどちらが間違いかなんて判断がつかない状況ってことです。

 

 

 

 

 

 

だけど、これは本当に「間違い」でしょうか?

 

 

別に桜がスリズィエだろうがセリシールだろうが全然問題ないのでは?

もはや多数決では勝ってるセリシールくん。ここまで日本で広まったことばを「間違い」とはねのけるのは、それこそことばの本質を無視しています。

 

 

 

 

「セリシール」が広まっているここはフランスではない。

ここは日本だから間違いじゃない!!!!!!

フランスに行ってセリシールって言っても通じません。なぜならそれは間違いだから。でも、日本では間違いじゃない。

 

 

 

ちょっと整理すると。

フランス語において、cerisier=桜です。読み方は/səʁizje/

ですが、日本語において(重要)、桜=スリズィエ、桜=セリシール

という方程式がもはや社会的に成立してしまっている。

 

つまり定着したモン勝ちってこと。

ここまでおk?

 

 

 

 

ここで大事なのは、

cerisier = 桜 ≠ セリシール

と言うこと。cerisierはどう転んでもフランス語だからね、どうこねくり回してもセリシールにはなれないよ。

 

セリシールということばが生まれるきっかけは "cerisier" だとしても、読み方も発音も微塵も関わりがないのでもはやその2語の間に相関関係は何もない。

関係がないということは、セリシールはフランス語ではない。

 

 

 

つまり、「セリシール」は日本語。日本生まれの日本育ち生粋の日本語。

 

 

わかりやすく言うと、「セリシール」は外来語であって外国語ではないってこと。 




 

セリシールが日本語において間違いとは言えないということはなるほどよくわかった。

さてここで、セリシールが日本語で定着した要因の一つについて考えていきたい。

 

私が思うに、一番は「音」ではないかなと。

 

 

スリズィエとセリシールは同じ「桜」を指すので、スリズィエ=セリシールという式が成り立つ。

これらを比較したとき、おそらく9割9分の人間が「セリシールの方が音がキレイ」と言うでしょう。オノマトペの世界と似たような感覚。(音や文字と認知感覚との関係を話すと論文が書け(ry)

 

 

今回の漫画に当てはめるとよくわかる。

「スリズィエ」よりも「セリシール」の方がかわいい女の子を形容しそう。なんか可憐なイメージがある。スリズィエはなんか音が濁ってて可愛さは感じられない。。。

もし編集者や査読者が「これは間違いだ!スリズィエと読まなければ!」と言ったとしても、読者は「・・・?フランス語の桜ってことば、あんまキレイじゃないんだね」とか言って受け入れないかもしれない。

そう考えると、日本語で名付けるならセリシールってとてもキレイでいい響きだと思います。意味はともかく。

 

 

 

 

ここまでつらつら書いてきましたが、まとめとして

・セリシールは日本語の中で使われる場合、間違いとは言えない

・日本人の感覚的に、スリズィエよりもセリシールの方が好まれやすい

ってことを言いたいだけなんですよね。「セリシール」って言葉を間違いだ!と掲げて世論に対抗したり無知だなんだと嘲笑しようなんて意図はまっっっったくない。

 

 

じゃあ、なんで今回の新テニでの「セリシール」は、私はこんなに認めることができないんだろう。。。

 

 

 

 

一日考えてようやくわかりましたよ。

これフランス人のキャラが言っているんですよ

 

 

 

 

フランス人が使うのは、どう考えても "cerisier" の方だとしか考えつかない。

フランス人がフランス語間違ってどうする。

 

というか「セリシール=日本語」論を使うなら、このフランス人は

相当流暢な日本語を話してやがる

まあ日本語も話せる設定でしょうが、文脈的にフランス語だと思うんですよね。

(名前に「桜」が付く女の子に対して)

「ほう…桜(セリシール)か 美しい名だ」

 

どう考えてもフランス人がついフランス語出しちゃったシーンでしかないでしょ。

 

 

 

どうしてもフランス語を使いたいなら、なぜカタカナを使っちゃったんだろう…と本当に本当に本当に残念。

 

例えばだけど、

桜 (cerisier) 

のようにルビをフランス語で振るなら全く間違いではないし、こちらの方が「フランス人がフランス語を話している」とすっきり納得する。

 

大半の読者がフランス語をわからないといっても、「桜」と日本語で書いているならば

「ああ、cerisierはフランス語で桜って意味なんだな」ってわかるはず。

 

フランス人キャラが、どんな風に発言 (発音) したのかをどうしても示しておきたいなら、苦肉の策だけどもカタカナで「スリズィエ」と書くべき。

 

 

 

 

 

 

 

フランス語は英語や日本語と比べてどうしてもマイナー言語なので、受け手は書かれた言葉を間違ってるなんて疑問も抱かず、全て鵜呑みにしちゃう。それは仕方ないというか、そもそも鵜呑みにしてしまう場面だと思う。日本のこの状況だと、「セリシールがフランス語として間違いだ」と気付ける人は本当にフランス語を学んだ人じゃないと無理でしょう。

 

 

 

 

でも、書き手までそうなってしまってどうすんのって話ですよ。

小説に、漫画に、雑誌に、ネットに載ってるから。お店の名前だから。ベストアンサーだから。

みんな使ってるから、それが正解。

 

でも、ことばに関わる人たちには、ことばに対して無責任なことはしないでほしい。という一ファンの希望でした。